ゆめみごこち

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【刑法】PTSDは傷害に該当するのか

今回は授業で扱った判例について書きます。

 

 

扱った判例平成24年 7月24日最高裁判所第二小法廷での判決です。

 

 

事件の概要:被告人は、2015年12月からの約1年間にわたり、電子メールのやり取りやイベント会場で知り合った17歳から23歳の4人の女性をホテル客室や被告人の居室に不法に監禁した。被告人は、女性らに対して暴行や、脅迫を加えて、女性らが監禁場所から脱出することが困難な状態に陥らせることで女性らを不法に監禁した。その結果、女性らに外傷後ストレス障害 (以下PTSD)を負わせた。また、1人の女性に対しては暴行を加えた結果、顔面打撲等の傷害を負わせた。(参考:東京地裁平成19年10月19日・刑集66巻8号735頁)

 

 

この事件において争点となったのは、PTSDは刑法204条の規定する「傷害」に該当するかということです。

 

この点が問題になった理由は、従来最高裁判所大審院 が純粋な精神的機能障害を刑法上の傷害として認めた事例が存在していないからです。従来の判例では、睡眠障害や慢性頭痛症、耳鳴り症を発症させた事案において傷害罪の成立を認めていました。

しかし、これらの症状は身体的機能障害の結果に伴うものと考えられるため、PTSDを同様にして判断するのは妥当ではないのです。

 

そこで、この事件では刑法上の「傷害」の意義が問題となります。

傷害の意義については人の身体の生理的機能に障害を与えること、または人の健康状態を不良に変更することととらえる生理的機能障害説、外形的完全性を害することととらえる身体完全性侵害説、生理機能の障害及び身体の外形の重大な変更ととらえる折衷説が挙げられます。

最高裁は「刑法にいわゆる傷害とは、他人の身体に対する暴行によりその生活機能に障がいを与えることであって、あまねく健康状態を不良に変更した場合を含む」(最小三決昭和32年4月23日・刑集11巻4号1393項)という判決を出し、生理機能障害説の立場にったっています。

 

さらに問題になったのはこの刑法上の「傷害」概念に精神的機能障害は含まれるかという点です。

 

先述した通り、これまで最高裁大審院が純粋な精神的機能障害を刑法上の「傷害」として認めた事案はありません。この点について学説は、生理的機能には身体的機能だけでなく精神的機能も含むととらえる積極説(多数派)と、傷害罪の保護法益としての健康とは身体の健康を意味しており、そこに精神の健康は含まれないという消極説に分かれています。

被告代理人は後者の立場に立って精神的機能障害であるPTSDが刑法上の「傷害」には該当しない旨を主張していました。

 

この点について、最高裁判所精神的機能障害を刑法上の「傷害」として認めました。刑法204条における「人の身体」という文言は、身体的機能のみというように限定的に解釈する必要はない。精神的機能が障害され、精神的な不調を生じる場合に、医学的に見てそれが治療を必要とすると判断する程度の精神疾患であれば、人の健康を不良に変更し、生理機能に障害が生じていると言えるため、精神的機能障害は刑法上の「傷害」に該当すると言えるとしました。(参考:辻川靖雄『最高裁判所開設刑事編平成24年度』268頁)

 

PTSDを発症させたことが傷害罪に当たるか検討する上で、PTSDについても明らかにする必要があろます。

 

PTSDは1980年のアメリカで新たに誕生した概念であり、その歴史は浅く発展段階にあることから、PTSDの概念や診断基準において批判があります。

被告代理人も、概念が不明確なPTSDを刑法上の「傷害」として扱うことは罪刑法定主義に反する旨を主張していました。

 

PTSDの概念は医学上「強い精神的外傷(生命や身体に脅威を及ぼし、強い恐怖、無力感又は戦慄を伴うような外傷体験)への暴露に続いて、特徴的ないくつかの症状が発現してくるもの」として定義されており、その診断基準は米国精神医学会のDSM⁻Ⅳ⁻TRと世界保健機関(WHO)のICD⁻10の2つが用いられています。

今回の事件においては前者の診断基準が用いられました。

 

 最高裁PTSDについて、精神医学の分野において特定の精神疾患として認知されており、医療機関における診断と治療の対象になっていたこと、専門的な医療機関では治療や診断に世界的に使用されている診断基準としてDSM⁻Ⅳ⁻TRとICD⁻10の診断基準として用いられていることを理由に、PTSDの概念とその診断基準を認めています。(参考:辻川靖雄 同上270頁)

 

最高裁は被告人が4人の女性を不法に監禁し、その結果PTSDを発症させたことを刑法204条の傷害罪に当たるとし、被告人に監禁致傷罪の成立を認めました。

 

この事件は最高裁が精神的機能障害を刑法上の「傷害」として認めた最初の事例となり、その意味でこの判例は価値の高いものと言えるのではないかと思います。

精神的機能は人の身体の重要な機能であり、保護法益に当たるはずだから、精神的機能障害を発症させることが傷害罪として罰せられることは妥当であるのではないでしょうか。

 

しかし、この判例において認められたPTSDの概念や診断基準は未だ発展段階にあり、これからの変化が予測されます。

 

 

そのため、この判例の法的安定性が揺らぎ、その拘束力が弱まってしまうのではないかと疑問に思ったりもするところです。

 

 

 

 

判決文や調査官解説、刑法各論の参考書などを読み漁って判例について調べてまとめたので、とても満足しています。

 

これまでは、今回ほど文献を集めてレポートを書いたことはなく、今回は初めての挑戦だったのでとても苦労しました。

 

でもそんな中で完成させたレポートには自信がついたし、楽しかったです。

 

今回の学習を糧にこれからも法学の勉強に励みたいと思います。